社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

石弘光『環境税とは何か』(岩波新書)

 

環境税とは何か (岩波新書)

環境税とは何か (岩波新書)

 

  地球温暖化問題の現状を踏まえたうえで、環境政策の必要性を理論的に説き、その中でも炭素税に照準を当てて将来の制度化に期待している。

 環境税の導入を考えたとき、既存のエネルギー課税を活用する方法と、新税を新設する方法が考えられる。既存のエネルギー課税は特定財源となっているため、それを活用するのは既得権益を強化することになる。

 新税として炭素税を導入すると、(1)税収が多額、(2)輸入段階の課税だと税収の8割が原油・石炭から得られる、(3)消費段階の課税だと都市ガス・電気を含みエネルギー源が多様化する。

 ただし、炭素税には逆進性があるので配慮が必要、そして中立性を担保し目的税化は避けなければならない、行政費用や経済成長にも配慮が必要である。

 本書は環境税特に炭素税についての理論的背景及びメリット・デメリットを詳細に論じた本であり、この一冊を読んだだけで炭素税のことは非常によくわかると思う。さらに経済学理論による分析は環境経済学によりなされているようなので、そちらの関係の書籍も読むと理解は深まりそうである。

三井秀樹『美の構成学』(中公新書)

 

美の構成学―バウハウスからフラクタルまで (中公新書)

美の構成学―バウハウスからフラクタルまで (中公新書)

 

  デザインやファッションの基礎となる構成学についての簡単な入門書。誰にでもお勧めできる良書である。

 産業革命によって工業製品が人工的に大量生産されるようになると、デザインの需要が高まった。造形の数理性やバランス・統一感、色調の調整などを意識的に学化する必要が生じた。それに取り組んだのがバウハウスである。

 バウハウスは、従来のように、芸術を天才の特殊な産物ととらえるのではなく、造形能力は教育や訓練で育てられるとの信念に基づいてデザイン教育を行った。また、アルミニウム・ガラス・プラスチックなど、新しい素材も積極的に取り入れ、技術と芸術の総合を目指し、最終的にはそれが建築において実現されると考えた。

 構成は、形体や色彩という造形に普遍的に存在する造形要素について掘り下げ、色彩感覚や造形に対する鋭い感性を養っていく学問であり、すべての芸術のみならずファッションの基本原理でもある。

 本書では、構成の具体的なプロポーションなどについても詳しく言及されており、構成の基本的な知識も習得できるようになっている。また、構成を生活で生かす方法としてファッションを位置づけ、その具体的な指南も行っている。デザインについて学ぶ基礎中の基礎を提供してくれる本だ。

伊東光晴『ガルブレイス』(岩波新書)

 

  ガルブレイスプラグマティズムに依拠して現代資本主義を分析し続けた経済学者である。

(1)市場を調整するメカニズムは競争と拮抗力である。市場は競争だけで決まるものではなく、労働者や消費者からの圧力によっても決定する。

(2)経済二分法。大規模法人企業と小規模個人企業では成立する経済原理が違う。大企業では、経営の支配権はテクノストラクチュア(経営者の下の各種組織の専門知識を持つ集団)に握られている。だから、経営トップは能力以上の高額な所得を得て腐敗する。

(3)ゆたかな社会では、必需度の高いものの消費が減り、必需度の低いものの消費が増える。それをあおるのが広告である。またゆたかな社会では公共サービス資金が回らない。政府の政策には企業や労働者が参加してコスト上昇による物価上昇という悪循環を断ち切るべきである。

(4)農業、個人企業、サービス業へのまなざし。これらの分野の経済状態の悪化を防ぐためには、自己搾取(度の過ぎた自己努力)をなくさねばならない。最低賃金制の導入、数量制限、教育の地域間格差の解消などが望ましい。

 ガルブレイスの経済学は、普段我々が接しているケインズまでの経済学の先へと向かうものである。我々はガルブレイスを学ぶことによって、より現代的な経済問題を把握することができ、現代の経済を考えるきっかけをつかむことができる。このように、絶えず現実を把握することをやめなかった経済学者の足跡は貴重である。

横手慎二『スターリン』(中公新書)

 

スターリン - 「非道の独裁者」の実像 (中公新書)

スターリン - 「非道の独裁者」の実像 (中公新書)

 

  ソ連崩壊後明らかになった新しい資料を基に描かれたスターリンの肖像。生い立ちから運動化時代、権力の座に上り詰めるまでの軌跡が描かれる。スターリンの伝記については、ソ連情報統制や資本主義国の偏見によって過分に歪められていたが、あくまで中立な記述を目指している。

 スターリンの死後、彼の評価については擁護派と糾弾派に分かれている。彼の工業化推進を評価する立場と、集団的弾圧や粛清を糾弾する立場である。フルシチョフは明確にスターリンを批判したが、ゴルバチョフは折衷的な態度をとった。

 スターリンは、確かに晩年は老齢によって拙い政治を行ったが、独裁者として君臨するにあたって、様々な策謀をめぐらした。スターリンの直面した問題は、戦争も含むあまりにも複雑な問題で、それに対してスターリンは一貫した理論的態度を持たなかった。政治というのは、為政者が、置かれた状況を総合的に臨機応変に判断して行うものなので、その当否の判断は難しい。だが、現代の価値観からすれば彼の民衆弾圧は重大な人権侵害であることに間違いはない。

坂井榮八郎『ドイツ史10講』(岩波新書)

 

ドイツ史10講 (岩波新書)

ドイツ史10講 (岩波新書)

 

  ドイツ史の森の入り口に立たせてくれる本。基本的に簡潔を旨として、重要でややこしい事件についてはあえて踏み込まなかったりもする。全ヨーロッパに共通する部分とドイツ固有の部分があるが、全ヨーロッパ的な出来事についてもドイツ特有の事情が語られる。一つの叙事詩のようにドラマの起伏があり、大変楽しめた。これをもとに、より詳しくドイツ史の各論を読んでいこうと思う。