社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

小島道一『リサイクルと世界経済』(中公新書)

 

  国際リサイクルの入門書。

 家電製品や自動車、タイヤ、農業機械などは先進国から途上国へと中古品が輸出されて国際的にリユースされている。また、廃プラスチックや古紙、鉄スクラップ、石炭灰、貴金属スクラップは資源として輸出されてリサイクルされている。

 こういった国際リサイクルに伴って、安全性や衛生上の問題、輸入国の産業を阻害する問題、廃棄物や環境汚染の問題が起きている。それに応じるように、有害廃棄物の越境移動への規制などの国際ルールが定められている。

 本書は、地球規模で行われているリサイクルの実態とその問題、それへの対策について入門的に平易に書かれている。誰もが漠然と知っているが詳しくは知らない、そういうテーマだと思う。タイトルとは裏腹に経済的な分析は少なかったのでその点は残念だが、国際リサイクルの現状を知るうえで格好の入門書だと思う。

白波瀬佐和子『生き方の不平等』(岩波新書)

 

生き方の不平等――お互いさまの社会に向けて (岩波新書)

生き方の不平等――お互いさまの社会に向けて (岩波新書)

 

  人生の選択における不平等の実態と解消法を説明。

 子ども、若者、成人、高齢者といったライフステージごとに人生の選択肢が不条理に限定されている。女だから、男だから、貧しい家庭だから、望むだけの教育を受けられない、希望の職業につけないという不条理が起こっている。

 このような社会においては、社会的想像力を働かせ、貧困などで困っている当事者をおもんばかる姿勢が必要である。我々はお互い様の関係で広くつながっているのだから。社会政策としては、貧困対策としての再分配、子育て支援や就労支援、就労を通した参加型社会の形成が挙げられる。

 本書では現代社会の様々な問題が、個々人の人生の選択の問題として再構成されている。そして、貧困などにより人生の選択肢が奪われてしまう人へと手を差し伸べる手段としてお互い様の意識という社会的想像力があげられ、具体的な政策提言をしている。同内容のことは繰り返し言われてきたが、それを人生の選択肢の問題として再構成している点が本書の新しいところである。参考になった。

ブレイディみかこ『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)

 

  イギリスで保育士をやっている著者によるイギリスの貧困問題目撃談。

 イギリスでは労働党政権時に拡大された福祉政策が保守党政権になってから縮小され、それは貧困層に大きなダメージを与えた。保育所もかつては底辺層をしっかりと扱っていたのに、今では予算が削られ底辺層というより移民層が入ってくるようになった。そして、保育所に来る子供たちの親のほとんどは薬物依存、シングルマザーなどの社会的な問題を抱え、子供たちの間にも階級の差が生じている。階級の差もあれば移民と英国人との葛藤もある。とにかく保守党政権下のイギリスは福祉政策に関してブロークン・ブリテンを作り出してしまっている。

 本書は、保育士として実際現場で働いている著者による日々の仕事を記述する一方、その背後にある政治問題を浮き彫りにしている。ミクロから発されたマクロへの問題提起であり、本来政治とはこういうところから発生するものなのであろう。政治はミクロな個人へダイレクトに影響する。それが特に貧困層に対して謙虚である。日本も同じわだちを踏もうとしていないだろうかと不安になる。

門脇厚司『社会力を育てる』(岩波新書)

 

社会力を育てる――新しい「学び」の構想 (岩波新書)

社会力を育てる――新しい「学び」の構想 (岩波新書)

 

  階級社会を是正するための処方箋を提示。

 日本は格差社会どころか階級社会になってしまっている。優秀な人間同士が結婚し優秀な子供が生まれる一方、能力のない者同士の子どもは能力がなく育つ。そのようにして生物学的に階級が固定してしまっている。

 このような階級社会を是正するために、社会を構成する誰もが能力の多寡にかかわらずお互いの力を出し合い、成果を分かち合うことでたがいに感謝しあう社会を作り出す必要がある。そのような互恵的共同社会を生み出すためには人と人とのつながりを生み出す社会力を強化し、教育する必要がある。

 個々人の能力の比べ合いや競い合いではなく、能力の出し合いや寄せ合いをすること。能力主義ではなく、たがいに他社を理解し合い、信頼し合いながら互いに力を合わせて問題解決にあたり、課題の解決を喜びにするように教育の方向性を変える必要がある。

 本書は、近代以降自明視されているメリトクラシーに異議を述べるものであり、能力によらない社会による階級社会是正を目指すものである。確かに、日本が階級社会であることはすでに多くの識者から指摘されてきた。それに対する教育による是正ということが語られているが、まだまだ抽象論が多く青写真にとどまる感がある。ただ、多少前進は感じられた。

内田博文『法に触れた少年の未来のために』(みすず書房)

 

法に触れた少年の未来のために

法に触れた少年の未来のために

 

  近年の触法少年をめぐる状況を憂慮して書かれた本。

 子どもの権利は国際法で広く保障されているにもかかわらず、近年日本では刑罰国家への転換による少年への対処の厳格化が進んでいる。非行少年は統計的に増加していないにもかかわらず、少年非行の凶悪性が強調され、厳罰化が進む。少年への保護処分も福祉の意味合いより保安処分の意味合いが強くなっている。

 ところが、非行少年は家庭環境や社会環境によって生み出されることが多く、そのような非行少年を重く処罰するのは非行少年の人権を侵害する行為である。社会が非行少年を生み出しているのだから、まず社会を改善すべきである。例えば少年が自己肯定感を持てる社会を作るなど。

 本書は少年法の専門書であるが、触法少年をめぐる近年の動向が網羅的に詳細的に記述されており、とても勉強になった。触法少年をめぐる制度や社会の動き、NPOの活動など記述は多岐にわたっている。立法論というのはとても難しく、内田はみずからの立場を明確に示しているわけであるが、もちろん反論も根強くあるだろう。だが、内田にはこの立場を維持してもらいたい。こちらのサイドがいなくなったら議論が貧困化してしまう。