社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

法哲学

嘉戸一将『法の近代』(岩波新書)

法の近代 権力と暴力をわかつもの (岩波新書) 作者:嘉戸 一将 岩波書店 Amazon 法とは何か。何が権力と暴力を分けるのか。そのテーマについて、様々な知見をもとにダイナミックに思考している本。結論としては、権力と暴力、政府と盗賊を区別するために、主…

森村進『自由はどこまで可能か』(講談社現代新書)

自由はどこまで可能か=リバタリアニズム入門 (講談社現代新書)作者: 森村進出版社/メーカー: 講談社発売日: 2001/02/20メディア: 新書購入: 16人 クリック: 321回この商品を含むブログ (90件) を見る リバタリアニズムとは、個人の財産権、経済的・精神的・…

イェーリング『権利のための闘争』

権利のための闘争 (岩波文庫)作者: イェーリング,Rudolf Von Jhering,村上淳一出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1982/10/16メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 37回この商品を含むブログ (28件) を見る 権利を侵害されたとき、我々はどんなことを感じ、また…

ケルゼン『純粋法学』

純粋法学作者: ケルゼン,横田喜三郎出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2003/06メディア: 単行本 クリック: 2回この商品を含むブログ (2件) を見る 純粋法学とは、純粋な法律理論である。どういう意味で純粋であるかというと、一切の政治的イデオロギーと自然…

権限=他律決定

自分のことは自分で決めるし、自分についてはどんな愚かなことをやっても国家は介入しない。自分のことは自分が絶対的に排他的に支配していて、自分のことは自分で処分できる。イェーリングは『権利のための闘争』において、権利を主張することは自己の倫理…

内藤淳『自然主義の人権論』

自然主義の人権論―人間の本性に基づく規範作者: 内藤淳出版社/メーカー: 勁草書房発売日: 2007/04/03メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 25回この商品を含むブログ (12件) を見る 人権は普遍的なもの、前国家的なものだと憲法の通説は教える。だが、歴史的…

無効・取消・不存在

行政行為であれ会社の行為であれ法律行為であれ、それが無効であるか取り消しうるか不存在であるかは、その行為の性質によって決まると思われがちである。行為が無効としての性質、取り消し得るという性質、不存在という性質を備えている。一見これは正しい…

高橋哲哉『デリダ』

デリダ (現代思想の冒険者たちSelect)作者: 高橋哲哉出版社/メーカー: 講談社発売日: 2003/07/11メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 3人 クリック: 32回この商品を含むブログ (48件) を見る 法というものは暴力によって成立する。妥当性を最終的に根拠づ…

黙示的立法

司法権の作用とは、一般的には、具体的事件について法を適用し宣言することだと言われている。だが、法律の文言というものは一定のあいまいさがあり、解釈の余地を残すものである。よって、法を適用する場合にも、その前提として法を解釈しなければならない…

沈黙

沈黙について考えている。思想良心の自由によって絶対的に保障されるのは、内心の世界観や人生観という人格の本質部分だとされている。この部分については、国家は、国民が沈黙しても何ら不利益を与えてはいけない。一方で、事実の知・不知、物事の是非善悪…

法的実践的推論

事実から規範を導くために、欲求と状態という事実から、その状態でそのような欲求を実現するためにはこのような手段が適切である、だからこのような手段をとるべきである、そういう推論方式がとられることがある。例えば、ある人が免許を取りたい。近くに教…

補充性と教育

補充性と断片性は違うらしい。カウフマンが『転換期の刑法哲学』で書いていた。なんでも、断片性というのは、国家が不必要な消極的介入をしないことを言うのに対し、補充性というのは、国家が不必要な積極的介入も消極的介入もしないことを言うらしい。言い…

権利に対する所有権

金銭債権が証券化でき、債権の移転や行使には証券が必要だとなってくると、結局、証券の所持者は、証券を所有することによって金銭債権を所有しているのではないかと思えてくる。つまり、債権に対する所有権のようなものがあるのではないか。 債権者とは債権…

命題の権力性

権力性とは何だろうか。権力性が問題となるのは例えば行政処分だ。私人の意思にかかわりなく、一方的にその私人の法的地位を変化させる。そして、その法的地位に従わない場合には物理的な強制がくわえられる。権力性とは、私人に有無を言わせずに一定の法的…

more efficient alternative

法と道徳を区別するのは、一つには、法システムと道徳システムがどこまで効率性が要求されているかである。法システムは限られた予算の中で限られた人材や資源を用いて運営される。しかもこの予算は主権者から徴収するものであり、主権者の不利益の上に成り…

人間の解除できない同一性

会社は合併することも分割することもできる。つまり、二つの法人格が一つになったり、一つの法人格が二つになったりする。これがなぜ可能かというと、会社は、その同一性を一時的に解除することが可能だからだ。 AとBが新設合併をすることを考えると、会社…

人権に対置される利益

法は複数の保護すべき利益の間で、それらのバランスの上で適切なあり方を実現する。諸利益が対立する場合、対立項としてよく現れてくるのが人権である。法は、人権と他の利益との調整を図って規定されていることが多い。 民法だったら、私的経済秩序維持の利…

法は自ら助けないものを助けない

最決平7・3・27は、必要的弁護事件において被告人が弁護人の在廷を困難にした場合に、刑訴法289条1項の適用の例外を認めている。つまり、弁護人がいなくても開廷でき、弁護人のいない開廷は違法ではないとするのである。 一般に、ある法律がある国民…

義務について

義務は他者や公共の利益を図るものだと思っていたが、「利益」のような「目的」を措定しなくても、義務の本質は論じれるのではないだろうか。何かの本で、権利義務については、利益概念で説明する説と選択概念で説明する説があると読んだが、その意味がやっ…

法律と生活

財産法と家族法を比べた場合、家族法の方が人間の生活とのかかわりが深い。刑法と行政法を比べた場合、刑法の方が、人間の生活に与える影響は大きい。だがこれは概括的な判断であって、法律の設定する同一性は、その発生させる効果の同一性を拾えていない。…

受忍義務

受忍義務は義務の本質ではないだろうか。つまり、作為義務の根底にも不作為義務の根底にも受忍義務がある。 作為義務を負う者は、その義務の履行において、自らの労力などを消費することによる不利益を受忍しているのである。不作為義務を負う者は、その義務…

「時計じかけのオレンジ」

スタンリー・キューブリック監督の「時計じかけのオレンジ」という映画がある。この映画では、犯罪を犯した主人公が、暴力的なシーンが連続する映像を強制的に見せられることで、暴力に対する生理的な嫌悪を抱くように矯正され、早々と社会復帰する。要する…

自己言及性

法がその法自体について自ら規定することがある。たとえば憲法98条1項の最高法規性。法の自己言及の在り方は、(1)法が自らの効力を規定する場合、(2)法が自らの適用範囲を規定する場合、(3)法が自らの目的を規定する場合、があると思う。 (3)…

論理も正義の一つにすぎない

判例は、12歳の少年に責任能力を認めず(大判大6・4・30)、11歳の少年に責任能力を認めている(大判大4・5・12)らしい。責任能力が年齢とともに備わっていくものだとする通常の理解からすると、これは矛盾している。12歳に責任能力がないの…

条文って何だろう

すべて国民は、法の下に平等である(憲法14条)。だから、国家は同じ国民は同じく扱わなければいけない。だが、「同じ」である、すなわち同一であるといっても、様々な程度がある。損害賠償債権も代金債権も、債権であるという意味では同一である。だが、…

放棄できない権利

権利というものは、誰でもいつでも自由に放棄できるかのようにも思える。自分で自分の利益を放棄するのは自由だ、というわけである。ところが、放棄できない権利というものもある。 人権の不可譲性の議論の中で、権利を保持・行使することが同時に義務にもな…

自己に対する権利

権利とは基本的に他人に対するものである。自己の利益のために他人に作為・不作為義務を課すのが他人に対する権利だと思う。たとえば身体の自由は他人が自己の身体を拘束しないように不作為義務を課すものであろうし、代金債権は他人に代金を払うように作為…

原則と例外

原則と例外に本質的な区別はないのではないだろうか。「人を殺した者は罰する」を原則、「ただし違法性がなければ罰しない」を例外とすると、ここで言われている法命題は、「人を殺した者で違法性がある者を罰する」という単一の命題でしかないのではないか…

自己に対する義務

法律は他人に対する義務は規定するが自己に対する義務は規定しない。つまり、「他人の利益になるように自分の行動を規制しなさい」とは命ずるが、「自分の利益になるように自分の行動を規制しなさい」とは命じない。「社会に悪影響を与えないように賭博はす…

可能性と存在

たとえば私が人を殺した可能性が高ければ、私は処罰されなければならないのだろうか。私が人を殺したのならば、私は処罰されなければならない。だが、単に「殺した可能性が高い」というだけで「殺した」ものとして処罰されることは適当だろうか。 存在した可…