社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

本間・中原『会社の中はジレンマだらけ』(光文社新書)

会社の中はジレンマだらけ~現場マネジャー「決断」のトレーニング~ (光文社新書) 作者:本間 浩輔,中原 淳 光文社 Amazon 経営学者の中原淳と、ヤフーの上級執行役員が、日本の職場をめぐる多様な論点について対談している本。話題は、上司が部下に仕事を振…

情報公開担当職員を2年やって気づいたこと

1.量の多さ 近年、情報公開制度が国民に広く知られるようになったため、公文書開示請求や保有個人情報開示請求の件数は増加の一途をたどっている。それをすべて把握するため、仕事量は多い。さらに、それに比例するように不開示決定等に対する審査請求の数…

石垣りん『詩の中の風景』(中公文庫)

詩の中の風景-くらしの中によみがえる (中公文庫 い 139-2) 作者:石垣 りん 中央公論新社 Amazon 石垣りんが近現代詩を一篇ずつ紹介しているエッセイ集である。素朴ながらも心を打つ詩が多く紹介されていて、読んでいて心から感情があふれ出しそうになる。石…

橋本努『自由原理』(岩波書店)

自由原理 来るべき福祉国家の理念 作者:橋本 努 岩波書店 Amazon 福祉国家の根本原理について考察した本。福祉国家の理念については様々なものが挙げられる。①福祉国家以前に存在した愛徳の理念で共同体の外側を包摂するもの、②ロックによる個人的所有権に基…

原俊彦『サピエンス減少』(岩波新書)

サピエンス減少 縮減する未来の課題を探る (岩波新書 新赤版 1965) 作者:原 俊彦 岩波書店 Amazon 日本だけでなく世界全体もいずれは人口減少に直面し人類は消滅に向かっていくという見取り図を提示する衝撃の本。人口学の専門家が著した本なので信憑性は高…

木村忠正『デジタルネイティブの時代』(平凡社新書)

デジタルネイティブの時代 作者:木村忠正 平凡社 Amazon 質的研究と量的研究を掛け合わせて行われたデジタルネイティブの研究。デジタルネイティブとは、デジタル技術に青少年期から本格的に接した世代のことで、1980年前後以降生まれの世代のことである…

齊藤彩『母という呪縛 娘という牢獄』(講談社)

母という呪縛 娘という牢獄 作者:齊藤 彩 講談社 Amazon クライム・ノンフィクション。異常な性格を持つ母親から、暴力・罵倒・強要などの虐待を受け続け、最終的に母親を殺した娘の物語。実際に起こった刑事事件の綿密な取材のもと生まれた非常に読みやすい…

岡嶋裕史『メタバースとは何か』(光文社新書)

メタバースとは何か~ネット上の「もう一つの世界」~ (光文社新書) 作者:岡嶋 裕史 光文社 Amazon メタバースについて、具体例を挙げながら解説している本。メタバースとは、「現実とはすこし異なる理で作られ、自分にとって都合がいい快適な世界」のことで…

船木亨『倫理学原論』(ちくま新書)

倫理学原論 ――直感的善悪と学問の憂鬱なすれちがい (ちくま新書) 作者:舟木亨 筑摩書房 Amazon 倫理学の根本を探求した本。倫理はしばしば宗教・政治・経済・法律と混同されて互いに入り混じってしまう。宗教・政治・経済・法律が混ざっていない純粋倫理につ…

寮美千子編『空が青いから白をえらんだのです』『名前で呼ばれたこともなかったから』

空が青いから白をえらんだのです ―奈良少年刑務所詩集― (新潮文庫) 新潮社 Amazon 名前で呼ばれたこともなかったから:―奈良少年刑務所詩集― (新潮文庫 り 5-2) 新潮社 Amazon 奈良少年刑務所において、編者が「社会性涵養プログラム」として行った詩作講座…

マウンティングポリス『人生が整うマウンティング大全』(技術評論社)

人生が整うマウンティング大全 作者:マウンティングポリス 技術評論社 Amazon 爆笑必至であるが、なかなか鋭い洞察を示してくれるマウンティングに関する本。マウンティングの実例を豊富に示したうえで、相手にマウントをとらせることがビジネスシーンでも役…

村松聡『つなわたりの倫理学』(角川新書)

つなわたりの倫理学 相対主義と普遍主義を超えて (角川新書) 作者:村松 聡 KADOKAWA Amazon 徳倫理学の入門書。功利主義や義務論では適切な解決ができない問題がたくさんある。徳倫理学は、すっぱりした回答を出してはくれないが、様々な事情を勘案しながら…

マイクロアグレッション

最近、少数者や特定の属性を持つ人に対する些細な、ときには意図せざる差別的言動をマイクロアグレッションと呼ぶようになった。例えば女性の業績に対して「女性なのにすごい」と言ったりすることの背後には、「女性は大したことがない」という偏見が隠れて…

山本圭『嫉妬論』(光文社新書)

嫉妬論~民主社会に渦巻く情念を解剖する~ (光文社新書) 作者:山本 圭 光文社 Amazon 嫉妬について小気味よくまとめて論じた本。嫉妬は民主社会において、人々が平等であることによっていっそう生じやすくなっている。嫉妬は公益的に作用すると世直しを導く…

奥村隆『他者といる技法』(ちくま学芸文庫)

他者といる技法 ――コミュニケーションの社会学 (ちくま学芸文庫 オ-37-1) 作者:奥村 隆 筑摩書房 Amazon 論文集。人間はただのリラックスした家庭生活を送るときでさえ、表情を整えたり相手に反応したり、一定の他者とともに居る技法を用いている。他者とい…

橋本努『経済倫理=あなたは、なに主義?』(講談社選書メチエ)

経済倫理=あなたは、なに主義? (講談社選書メチエ) 作者:橋本努 講談社 Amazon 世の人々の価値観を大分類している本。従来の保守・リベラルなどとは異なった価値観の軸を提唱している。①行政の倫理:合意形成力、事務的有能さ、自発性、正直、節倹、規律、…

人事の公正性の原則

我々社員は人事部の言うことはきちんと聞く。なぜなら人事は公正に運営されているという信頼があるからだ。社員の人事は常に公正に運営されなければならない。これが人事の公正性の原則だ。仮に人事が公正に運営されておらず、情実や政治によって不当にゆが…

橋本努『ロスト近代』(弘文堂)

ロスト近代 資本主義の新たな駆動因 作者:橋本 努 弘文堂 Amazon ポスト近代の後にくるロスト近代における現状と打開策を論じている本。ポスト近代においては、近代の超克が企図され、父権としての超越的規範が批判され規範そのものが失われていった。その過…

小川公代『ケアの倫理とエンパワメント』(講談社)

ケアの倫理とエンパワメント 作者:小川公代 講談社 Amazon ケアの精神を文学作品から読み解く試み。人間には連続的進行の「クロノス的時間」とは別の、経験に基づいた想像世界が育まれる「カイロス的時間」が流れている。ケア労働の背後にある内面世界にはカ…

橋本努『消費ミニマリズムの倫理と脱資本主義の精神』(筑摩選書)

消費ミニマリズムの倫理と脱資本主義の精神 (筑摩選書) 作者:橋本 努 筑摩書房 Amazon 最近消費におけるミニマリズムが唱えられているが、それが脱資本主義とどう関係するか論じた本。今はポスト近代のさらに先のロスト近代であり、必要最低限のモノで生きて…

栗原康『超人ナイチンゲール』(医学書院)

超人ナイチンゲール (シリーズ ケアをひらく) 作者:栗原 康 医学書院 Amazon ナイチンゲールについての現代的な視点から見た評伝。ナイチンゲールは、看護という営みを通して、リスクを計算して合理的に生きるという近代的個人を超えている。それは彼女の神…

東畑開人『ふつうの相談』(金剛出版)

ふつうの相談 作者:東畑開人 金剛出版 Amazon 医師が専門的な知識を用いてカウンセリングなどを行うのはむしろ例外的であって、世の中にはインフォーマルな相談でありふれていてそれが治療効果を持っているとする本。「ふつうの相談」とは、民間セクターで交…

戸谷洋志『親ガチャの哲学』(新潮新書)

親ガチャの哲学(新潮新書) 作者:戸谷洋志 新潮社 Amazon 親ガチャについての哲学的な議論。自分の人生が生まれたときの状況によって決定されており、あとからその運命を変えられないとする「親ガチャ的厭世観」がしばしばみられる。これは、自分の人生を自…

東浩紀『訂正する力』(朝日新書)

訂正する力 (朝日新書) 作者:東 浩紀 朝日新聞出版 Amazon 一人一人が訂正する力をもって地道に行動していけば社会は変わるという主張をしている本。訂正する力とは、過去との一貫性を主張しながら、実際には過去の解釈を変え、現実に合わせて変化する力のこ…

井奥陽子『近代美学入門』(ちくま新書)

近代美学入門 (ちくま新書) 作者:井奥陽子 筑摩書房 Amazon 現代の美意識や美の概念の成立の経緯をたどる目から鱗が落ちる本。「アート」という言葉は古代から中世まで「技術」を意味していて、それが「芸術」を意味するようになるのは近代のことである。近…

2023年に読んだ本

2023年の読書メーター読んだ本の数:130読んだページ数:33957ナイス数:749人が人を罰するということ ――自由と責任の哲学入門 (ちくま新書 1768)の感想議論の展開がダイナミックで目からウロコ。素晴らしい。読了日:12月26日 著者:山口 尚別れの色彩 …

山口尚『人が人を罰するということ』(ちくま新書)

人が人を罰するということ ――自由と責任の哲学入門 (ちくま新書) 作者:山口尚 筑摩書房 Amazon 人が人を罰することに果たして意味はあるのか。罰することは無意味だとする理論への反論を提示している本。人を罰することは無意味であるとする議論がある。それ…

山根・牟田『なぜ日本からGAFAは生まれないのか』(光文社新書)

なぜ日本からGAFAは生まれないのか (光文社新書) 作者:山根 節,牟田 陽子 光文社 Amazon GAFAが発展した要因を分析し、それが日本にはないことを説明している本。アップルでは、スティーブ・ジョブズのクレイジーさがその成功を導いた。グーグルでは先見の明…

本多真隆『「家庭」の誕生』(ちくま新書)

「家庭」の誕生 ――理想と現実の歴史を追う (ちくま新書) 作者:本多真隆 筑摩書房 Amazon 家庭という場所をめぐる議論の変遷を跡付けながらそこで問題となっている人間の居場所について考察している本。「家庭」というと、今では保守派が守るべきものとして維…

岩尾俊兵『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(光文社新書)

日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか~増補改訂版『日本“式”経営の逆襲』~ (光文社新書) 作者:岩尾 俊兵 光文社 Amazon 日本企業は経営技術において優れているが、その理論化において劣っているとする本。日本が産業界において世界的に見て停滞気味な現状に…