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■目的規定

刑事訴訟法1条
この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正かつ迅速に適用実現することを目的とする。

 法律にはこのような目的規定がおかれることが多いが、内容は抽象的であり、具体的に事件を法的に構成するにあたって大して存在意義がないようにも思える。だが、目的規定は、その法律の趣旨・目的を規定するものとして、法解釈において重要な役割を果たす。

 例えば、刑訴319条1項は任意性のない自白の証拠能力を排除している。刑訴法の実体的真実発見の要請(1条の目的規定の「事案の真相を明らかにし」から読み取れる刑訴法の趣旨)を重視する見解(虚偽排除説)からは、その趣旨は、虚偽の内容の自白がなされることで誤判が生じるのを防ぐことだととらえられる。この説に立てば、問題となっている自白が虚偽であるかどうかによって排除すべきかどうかを判断することになり、法の適用の仕方が一定の方向に導かれる。つまり、目的規定は法解釈の指針となることで、具体的な法適用を左右することもあるのだ。目的規定には重要な存在意義があるのである。