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法の豊かさと社会の豊かさ

 刑法における、客体を物理的に損傷する罪を考える。すると、放火罪(107−110)、殺人罪(199)、傷害罪(204)、文書毀棄罪(258,259)、建造物等損壊罪(260)、器物損壊罪(261)などといった様々な罪が規定されている。

 もし、人間が体ひとつで生きているならば、殺人罪と傷害罪だけあればよかったはずである。だが、人間は道具を生み出し、住居を作り、文書を生み出し、それぞれはそれぞれの価値を持っている。よって、器物損壊、建造物損壊、文書毀棄の罪が必要となったのである。

 つまり、人間がその活動を広げていき、人間の活動に必要であるという意味で価値を持つものが増えていくにつれ、刑法によって保護される客体も増えていくのである。人間がその社会生活を豊かにしていくにつれて、守るべき価値は増えていき、それに従って刑法で保護される客体が増え、刑法が豊かになっていくのである。

 法の豊かさや複雑さは、社会の豊かさや複雑さを反映している。