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執行の内容

 法律は暴力を背景に国民に命令する。不作為を命じるのを禁止、作為を命じるのを強制と呼ぶことにする。命令に違反したときに、(1)命令の内容に沿った状態を権力的に実現するか、(2)命令の内容とは無関係の法定された状態を権力的に実現するか、で命令を分類することができると思う。

 民事執行や行政執行は、(1)のタイプで、命令の内容に沿った状態を実現する。それに対して刑罰の執行は、命令の内容とは無関係の状態を実現する。

 この違いの原因としては、民事執行・行政執行で問題となるのが作為義務であり、刑罰の執行で問題となるのは不作為義務であることが考えられる。金を払えといっているのに払わない場合は、権力的に金を払わせればよい。作為義務違反の場合は、当該作為を実現すれば、社会なり債権者なりの要求は満足され、秩序は維持されるのである。それに対して、人を殺すなといっているのに人を殺した場合、もはや人を殺さない状態を権力的に実現することはできない。不作為義務が破られたとき、もはや不作為を実現することは不可能であり、不作為義務を破った者に罰則を課すことによってしか秩序の維持は期待できない。罰則は不作為義務の内容とは無関係である。殺すな、ということと、懲役刑は内容的に異なる。

 もちろん作為義務違反に対しても刑罰は科される(不退去罪など)が、原則として以上のような論理が働いているように思われる。