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「象徴」としての天皇

憲法1条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

 憲法学における「象徴」は、
(1)目に見えないものを目に見えるもので表すことであり、
(2)象徴されるものと適切な関係を結び、
(3)それを見たり考えたりすることで象徴されるものが意識される、
そういうものである。

 天皇が日本国・日本国民統合の象徴であるとは、(1)目に見えない日本国や日本国民統合を天皇という目に見えるもので表すことであり、(2)天皇は歴史的に日本国民の憧れの中心として扱われ、日本国と日本国民統合と密接な関係にあり、(3)天皇を見たり考えたりすることで、国民は自分が日本国民であることや日本国民としての一体感などを確認する。

 だが、一般的に象徴(symbol)とは、例えば言語のことであり、
(1)目に見えるものでも目に見えないものでも、感覚に訴えるもので表すものであり、
(2)象徴されるものと基本的に無関係で、
(3)それを感得する主体の心理的な動きはその定義において考慮されない、
そういうものである。

 /koppu/という音がコップという対象を象徴するとは、(1)目に見えるコップを聴覚情報で表すことであり、(2)/koppu/とコップには特に関係はなく、(3)/koppu/という音を聴くものがどんな心理的な動きをするかはどうでもよい。

 憲法学における「象徴」は、記号論におけるsymbolとはだいぶ異なっており、象徴するものとされるものはだいぶ限定され、かつそれを感得した主体の心理というencyclopedic(百科事典的)な要素も考慮されている。