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失踪宣告の特殊性

 主要事実と法律効果は異なる。主要事実とは、「原告は被告に対し、平成20年3月17日、甲土地を代金5000万円で売った。」という、法的評価の入り込まない生の事実である。それに対して法律効果は、そのような主要事実から法を介して引き出される効果であって、「原告は被告に対して5000万円の代金債権を有する。」という法的な事実であり、国家の強制力がその背後に控えている。

 だが、失踪宣告の場合はどうか。

民法30条1項 不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
民法31条 前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に(中略)死亡したものとみなす。

失踪の宣告というものが間に入っていてややこしくなっているが、それを度外視すれば、(1)七年間の生死不明(2)利害関係人の請求(3)家裁の認定 を要件事実として、期間満了時の「死亡」という効果が生じることになる。

 だが、「死亡」は法的事実なのだろうか。「死亡」自体は、誰かが権利を有したり義務を負ったりという法的事実ではなく、単にある人が死んだという生の事実であると思われる。法律効果としては権利義務が生じるのが通常だが、失踪宣告においては法律効果として生の事実が生じている。もちろんここでの死亡は擬制であるが、たとえ擬制された事実であって取り消されない限り覆されないとしても、権利義務とは本質的な違いがあると思われる。「死亡」自体は誰かの行為を要求できたり何かを排他的に支配することとは違うからである。

 法律効果として、法的事実(権利義務の存在)ではなく、むしろ生の事実に近い事実を引き出すのが、失踪宣告の特殊性のように思われる。