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法律上保護された利益

 取消訴訟の原告適格についての法律上保護された利益説が、いまだに納得がいかない。処分の根拠法が問題となっている利益を具体的に保護しているかどうかによって原告適格を画するのは、基準が明確ではあるが、その基準に必然性があるとは思えない。宇賀克也が「行政法概説II」で挙げている例だと、日照・通風の利益が問題となっている場合、建築確認を争うときと農地転用許可処分を争うときでは、処分の根拠法が違うから原告適格が認められたり認められなかったりする。だいたい個別法がその規定に基づく処分によって害される利益を保護しているかどうかという、いわば偶然の事情で原告適格の存否が左右されるのは好ましくないだろう。

 なので、法律上保護された利益とは、全実体法秩序によって保護された利益だと解してみるのが良いと思う。裁判上保護に値する利益説である。憲法や処分根拠法以外の法律によって当該利益が具体的に保護されていれば、根拠法が当該利益を保護していなくても原告適格を認めるのである。これに対しては基準が不明確だとか取消訴訟が民衆訴訟化するなどの批判が寄せられている。だがたとえば民事訴訟不法行為にもとづく損害賠償請求訴訟については、権利の侵害を広く救済する趣旨だと思われるが、基準の不明確さや民衆訴訟化による濫訴の恐れなどという批判は向けられていないはずである。実体法上保護される利益が侵害されているのに、たまたま根拠法がその利益を保護していないと言う理由で原告適格を認めないとするのにはやはり納得がいかない。