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意思のけんけつ

 虚偽表示の規定は権利外観法理を規定したものといわれるが、錯誤、心裡留保も外観法理に基づいているのではないか。

 内心的効果意思と合致しない表示行為が行われたとき、信頼の対象となる外観(表示行為)は存在するが、外観法理の適用にあたっては、それに加えて(1)第三者(相手方)の保護に値する信頼(2)本人の不利益を受けてもやむをえない事情・帰責性 が必要である。

 錯誤は、意思と表示の合致がないので原則無効であるが、要素の錯誤がないときまで無効にして本人を保護する必要はない。要素の錯誤がないことは、(2)の不利益を受けてもやむをえない事情にあたりそうである。さらに、本人に重過失があれば保護されない。これも(2)帰責性になりそうだ。問題は、相手方が錯誤について悪意であった場合である。この場合、(1)の要件を満たさないとして、原則どおり意思表示を無効とすることも可能だと思われる。ただ、条文上の根拠はなく(条文どおりだと相手方の善意悪意は意思表示の効力とは無関係である)、外観法理という私法の一般原則を援用するしかない。

 心裡留保は、相手方が悪意・有過失の場合は(1)の要件を満たさないから意思表示は無効である。ただし、本人は意思と表示の不一致を知って表示行為をしているので、(2)常に帰責性が認められ、原則有効となっている。