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形成判決

 日常生活では、要件事実の存否について特に争いなく物事が運んでいく。売買契約の成立があったら、その成立を適式に証明することなく、代金や引渡しを請求する。だが、裁判においては、要件事実の存在を証明し、請求権の存在を確認し、給付判決を下す。厳格に証明されていない事実をもとに、厳格に確証されていない権利に基づいて行為するのが日常的な法的行為の特徴だろう。

 だから、解除権などの形成権を日常的に行使する場合、実は権利変動は厳密な意味では確定しない。解除権の行使を前提に土地明渡請求訴訟を提起したりしたときに、相手方から解除要件が備わっていないという否認ないし抗弁が出されれば、裁判上権利変動は認められないかもしれない。日常的な法的行為には不安定さが付きまとうのだ。

 ところで、形成判決というものがある。これは、法定された事項について、裁判によってのみ権利の変動をもたらすものである。例えば、株主総会の決議に瑕疵があったからといって、株主が裁判によらずに勝手に形成権を行使して決議を取り消すことはできない。法律関係の安定が高度に要求され、画一的な法律関係の変動を必要とするような場合には、裁判によらなければ権利の変動を導けない。これは、そのような必要性がある場合に、日常的なレベルで形成権を行使されると、不安定で困るからだと思われる。