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令状主義

 被疑者の逮捕には逮捕状が必要である(刑訴199条1項)。ここで裁判官のチェックが入る。また被疑者の勾留には勾留状が必要である(刑訴207条1項・62条)。ここでも裁判官のチェックが入る。

 だが、行政庁の権力的事実行為、すなわち代執行・直接強制・即時強制の場合はどうか。これは逮捕・勾留などの、私人の利益を侵害する捜査活動と類似していないか。だが、例えば代執行は、戒告、代執行令書、という手続をとるが、これは行政庁が一方的に行うもので、中立的な第三者の判断をあおぐものではない。私人の側としては、代執行の取消訴訟を提起することで、司法の判断を仰ぐことになる。

 私人に不利益を与える権力的事実行為でも、それが捜査活動における強制処分の場合には令状が必要となるが、行政活動の場合には令状が要求されていない。これには、利益の侵害の程度、被疑者の人権が軽視されたという歴史的背景などの根拠があるのだろう。また、行政活動の円滑迅速な運営という利益も考慮されているのかもしれない。例えば、侵害的な行政行為にいちいち令状を要求していたら行政活動は立ち行かなくなるだろう。裁判所にも多大な負担となる。