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二種類の具体化

 仮に私が、そろそろ古くなったから携帯電話が欲しい、と思ったとしよう。この段階では、欲求の対象は「携帯電話」という抽象的なものに過ぎない。次に、私は予算を考える。2・3千円でいいか、と決めたとしよう。すると、欲求の対象は「2・3千円の携帯電話」という風に少し具体化される。さて、そしてauショップに入って、店員に予算を告げる。すると店員は、予算の範囲内のものを並べてどれがいいかたずねてくるだろう。その際それぞれの機種の機能を教えてくれるかもしれない。そして私は機種を決める。すると、店員は色を訊いてくるだろう。そこで私は「シルバー」と答える。

 さて、ここまで来ると、私の個人的な計画と、店員との契約締結過程を経て、私の欲求の対象は、「XX機種のシルバーの携帯電話」にまで具体化された。これが一つ目の具体化(種類の指定)である。つまり、重要な性質についての他との識別可能な程度の具体化である。

 次に、私と店員の間で売買契約が成立するとする。ここで私が有するのはその機種・色の携帯電話の引渡請求権という種類債権である。店員は、私の指定した機種・色の携帯電話をひとつ取り出し、それを提供する。これが二つ目の具体化(特定)である。つまり、同じ性質を持つ多数の携帯電話の中から、ただひとつの携帯電話を選び取るという具体化である。

 人間の欲求とは抽象的なものであるが、契約締結過程、履行を経ることで、欲求の対象は徐々に具体化される。契約締結過程においては性質が具体化され(第一の具体化)、履行において完全な具体化(特定)がなされる(第二の具体化)。特定とはこの第二の具体化にかかわるものである。