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所有権

 憲法29条1項は私有財産制を制度的に保障したものだとされる。だが、ここでは「財産権」と書かれるのみで、その具体的内容は法律で定めるとしている(同条2項)。おそらくそれを受けているのだと思うが、民法206条は物の所有者に使用収益処分権能を与えている。民法の規定であるから「所有者」は基本的に私人を予定していると思われ、私人は物に対して所有権なる権利を持ちうる。

 ここでは所有制度というひとつの物権制度が採用されていることに注意する必要がある。物権制度としては、他の可能性もありえたはずである。例えばあらゆる物を共有にするとか、あらゆる物を国家が私人に配給しその処分権能は国家が有するとか。だが日本民法は所有権という、排他的で、処分権能まで有している物権を私人に認めることで、私人に高い満足を与える物権制度を作り上げた。この物権制度は歴史的・相対的なものでしかないことに注意すべきである。思うに、あらゆる制度は歴史的・相対的である。人間の生物学的条件との関係で、一定の範囲に収まってはいるが。