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国家賠償制度

 国家賠償法の存在意義がいまひとつよく分からない。行政裁判所がなくなった現在、公法的な損害賠償を特別の法律で認める必要があるのだろうか。要するに、民法の使用者責任・工作物責任で充分対応できないのだろうか。過納税額について不当利得返還請求を認めたり、自衛官の死亡事故について安全配慮義務の適用・民法の消滅時効の適用を認めたりする判例が出ているのだから、公権力がかかわっていても民法で問題を解決してもかまわないはずである。
 結局、国家賠償法の存在意義としては、公益実現のため、私人よりも行為の適法性が要求される公権力に、損害賠償責任を加重することにあるのかもしれない。確かに、国賠1条は、民法715条1項のように国に対する免責を認めていないし、公務員への求償も民法よりも限定された要件で可能になっている。
 他にも、国賠制度と不法行為制度を細かく比べていくと、それぞれの制度趣旨に応じた違いがあるのだろうと思う。とすると、国家賠償法が制定されたのは、公法私法二元論のドグマによるものではなく、むしろ、公権力がかかわるときの損害賠償の適切なあり方を実質的に探っていったときに民法の特別法を制定するのが妥当だった、そのような考慮に基づくのであろう。