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付け加え禁止?

 条件関係の判断で、現実化しなかった仮定的事情を付け加えてはいけないと言われる。行為者が2丁拳銃を持っていて、右手の銃で被害者を殺害した場合、「仮に右手の銃で撃たなかったとしても左手の銃で撃って具体的に同じ結果を引き起こせたのだから条件関係が否定される」とするのは妥当でないといわれる。左手の銃で撃つという仮定的条件を付け加えてはいけないからとされる。

 だが、私は、仮定的条件の付け加えは許されると考えている。そもそも、仮定的消去法は、単純に実行行為を消去するのではなく、実行行為を実行行為以外の実現されなかった仮定的行為に代置することであり、仮定的代置法と呼ぶのが正確だ。銃を撃たないということは、銃を撃つ代わりに煙草をふかしたりあたりを見渡したりするということである。とすると、条件関係の判断には常に仮定的事情の付け加えが伴っている。

 だが、上の二挺拳銃事例などでは、付け加えを禁止しないと不当な結論になるのではないか。だが、実行行為を他の行為で代置したとき、潜在的な他の事情から、実行行為をしたときとまったく同じ結果が生じるのは極めて稀であり、論理的にはありえても実際はありえないと思われる。実行行為によって引き起こされる結果と、仮定的事情によって引き起こされる結果は、具体的には必ず異なっているはずである。それに、そもそも、実行行為によって引き起こされる結果は現実のものであるが、仮定的事情によって引き起こされたであろう結果は仮定的なものであり、それらは存在性格が異なる以上、比較すること自体困難だと思われる。

 また、付け加えを禁止すると、被害者が毒蛇にかまれ医師が血清の注射をしようとするとき加害者がアンプルを損壊して注射を不可能にして被害者を殺す毒蛇事例において、「医師が注射をしたであろう」という仮定的事情を付け加えられないことになる。すると、損壊しなくても被害者は死んだことになり、条件関係が否定され妥当でない。