暴力はいけない、という。だが、社会規範が維持されているのは、まさに背後に暴力が控えているからだ。国家は私人に代位して暴力を行使する。
暴力はいけない、という。だがだまされてはいけない。決裂した紛争を最終的に解決するのは暴力でしかありえない。そして実際に国家は「執行」という形で暴力を行使している。
実は、暴力はとてもよいことなのだ。お金を払わないと家を差し押さえて競売しますよ、という圧力。傷害事件を起こせば懲役刑を食らわせますよ、という圧力。国家は暴力を背景にして私人に規範を維持させる。国民が規範を守ることがよいことであるならば、国民に規範を守らせる暴力もよいものであるということになる。
結局国家がやっていることは、「毒をもって毒を制す」というやり方である。私人間の暴力や秩序紊乱を防ぐために、国家は暴力を用いる。「毒をもって毒を制す」の場合において、制される側の毒は悪であるが、制す側の毒は善なのである。