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申請に対する処分と信義則

 行政手続は、一般に行政のはたらきの事前規制によって行政の違法を抑止しようとすることが目的とされる。だがもちろん、それぞれの手続にはそれぞれの手続特有の趣旨目的がある。たとえば不利益処分に関する手続だったら、国家の恣意的作用から国民を守るという適正手続の理念がこめられているといえよう。

 では、申請に対する処分にはいったいどんな理念が反映されているか。私はそこに信義則の反映を見て取れると考えている。私人が行政庁に対して申請をし、それに対して行政庁が諾否の決定をする、という関係は、私人間の契約締結の過程における関係とある程度似ているのではないか。つまり、対立当事者が一定の法律関係の作出に向けて相互に情報を提供しあい交渉するという関係である。そこでは互いが信義をつくすことが要求されるのではないか。

 私人が申請をしようとする場合、仮に審査基準が公開されていないのならば、私人は行政庁に対して、いったいどういう要件を満たせばよいか問い合わせるだろう。行政庁は、私人の申請の諾否を決定する立場にあるものとして、誠実にその問い合わせに対応しなければならない。その誠実な対応をあらかじめやっておくことを法定したのが審査基準の設定・公開だと考えるならば、そこに信義則の反映を見て取ることができる。

 標準処理期間の設定についても、行政庁の誠実な対応を義務化したものと考えれば、信義則の反映を見て取ることができる。