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二重の基準

 法律効果を発生させるためには、事実が二つの基準をクリアしなければならない。それは、事実が、(1)すべての構成要件を満たすかという基準と、(2)そもそも特定の構成要件に該当するかという基準である。

 学説は、(1)のレベルでは、法定されていない構成要件の存在について論じたりする。基本的に構成要件は法定されているが、法律効果を発生させるのに適するように、構成要件を加えたり減らしたりする。公務執行妨害罪の構成要件として職務の適法性を加えたりするのがその例である。

 (2)のレベルでは、要件該当性を判断する基準について学説は争う。例えばある時間が労基法32条の労働時間に該当するかどうかについて、最判平12・3・9は、(A)労働者が使用者の指揮命令下に置かれているかどうかという基準と、(B)労働契約等の内容という基準を挙げ、(A)の基準を正当としている。これは労基法32条の、過酷な労働条件から労働者を救済するという趣旨にかんがみて、労働時間というものを実際に労働者に負担をかけている時間と考えるのが適切だと判断されたからであろう。(2)のレベルでも、当該法律効果を発生させるのに適した基準が選ばれている。

 特に、(2)のレベルにおいては、複数の基準が競合し、そのうちの優劣を裁判所が決するという事態が起きる。法律は構成要件を明示しているが、(1)その構成要件が適当であるか、また(2)構成要件該当性の基準はどれが適当であるか、について法解釈の余地が残されている。