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ヤクザの人間性

 もうひとつ映画の話を。私はヤクザ映画が好きで、昔はよく見ていたのだが、その中でも異色の映画があった。それはヤクザの親分の法廷闘争を描いたものであり、その親分によると、暴対法による規制強化は、ヤクザの人間性を否定している、とのことだ。

 人々の中には法を犯さないでは生きていけないような種類の人々もいるのであり、ヤクザもそれに含まれる。犯罪は彼らにとってはその人格から必然的に生じるものであり、その必然的に生じる犯罪を罰することはヤクザの人格や人間性を否定するのではないか。こういうことを親分は言いたかったのだ。

 基本的人権の内在的制約の議論、つまり人権といえども他人の人権を犯さない限度で保障されるに過ぎない、という議論で一蹴されそうな問題だが、本当はもっと根深い問題なのではないだろうか。法を犯さないではいられない人種は生まれながらに(あるいは育った環境ゆえに)刑務所行きが宿命付けられている。それは、社会防衛の名の下にある特定の種類の人間を差別的に社会から隔離することにより、それらの人々の人格の尊厳を全体主義の犠牲に供していることにならないか。ここには全体主義的な発想が働いていて、個人の尊厳や平等権がないがしろにされているのではないか。

 この問題についても私は充分な解答を得ていない。そもそも問題の所在をまだ充分把握しきれていない。現実の社会に生起する問題は、しんしほうしけんの問題同様複雑怪奇なのである。