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権限の構造

 381条1項は、監査役の権限として、取締役の職務執行の監査を挙げている。だが、監査役の権限はこれだけではない。監査役の権限は、(1)他の権限や義務の目的となったり、(2)他の権限や義務の手段となったり、(3)その権限の手段を媒介に他の権限と結びついたりする。

(1)381条2項の事業報告を求める権限、財産状況調査権限は、「監査」という監査役の基本的職務権限の手段となっている。逆に言えば、「監査」という権限は、事業報告を求める権限や財産状況調査権限の目的となっている。

(2)382条は、取締役が不正の行為をしたときなどにその旨を取締役に報告するという、監査役の義務を規定する。これは、監査役の「監査」を前提とし、「監査」を手段として達成される義務である。ここでは「監査」は上位の義務の手段となっている。

(3)386条には、取締役が会社を代表するのがふさわしくないときに監査役が会社を代表する権限が規定されている。この権限は、一見「監査」という監査役の職務権限と無関係にも見える。だが、監査役の「監査」という権限を達成するための手段として、監査役の地位の独立性が保障され、その独立性を手段として、386条の代表権限が導かれているのである。

 このように、機関の有する複数の権限や義務には、目的手段という関係が存在し、それが権限・義務の複雑な構造を作り上げている。