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「訴えの利益」は誰の利益か

 一言に訴えの利益というが、それはいったい誰の利益だろうか。「訴えの利益がない」というとき、そこでは誰にとって利益がないといわれているのか。訴訟に関する主体には、原告・被告・裁判所・納税者・社会などがあるが、誰の利益が問題になっているのか。

 訴えの利益の要素である権利保護資格としての権利性は、争いが国家権力をもって解決するだけの価値があるときに認められるものであり、訴えの許容性の要件であると解される。とすると、権利性がないときには、裁判所が無駄な裁判をしないように裁判をしないわけで、この場合、裁判所、ひいてはそれを財政的に支える納税者の利益が問題となっている。

 訴えの利益の要素である権利保護資格としての法律性は、裁判所の能力的限界を示すものであり、法律性がない、すなわち裁判所に判断能力がないのに勝手に裁判所が判断をしたのでは当事者の利益が害される。よって、法律性については、当事者の利益が問題となっている。

 訴えの利益の要素である権利保護利益としての訴えの必要性は、紛争解決を原告が必要としているのであり、そこでは原告の利益が問題となっている。

 訴えの利益の要素である権利保護利益としての訴えの許容性、つまり二重基礎の禁止・再訴の禁止などは、法律関係の安定のために要請されている。よって、そこでは、勝訴当事者や、紛争の蒸し返しで事務負担を負いかねない裁判所、法律関係の安定により安定を得る社会、などの利益が問題となっている。

 訴えの利益においては必ずしも原告の利益だけが念頭に置かれているのではないと解される。それでは、「訴えの利益」の名の下に訴えの許容性などが判断されていることを説明できない。訴えが許容されないような場合でも、原告としては訴える必要性があり、訴えることの利益があることは充分考えられる。原告に訴える利益があるにもかかわらず、訴えの許容性がないために「訴えの利益」が否定されるとするならば、そこでは原告以外の例えば裁判所などの不利益が生じているのである。