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情報・伝達

 犯罪を行うには、情報を収集する必要があることが多い。例えば強盗だったら、相手が年寄りで盗みやすいとか、相手の家の場所とか、どうすれば効率的に多額の金を盗めるか、とか。これは単独犯の場合だが、共犯だったら教唆犯・幇助犯による正犯への情報の提供が問題となる。共同正犯だったら互いに情報を共有しあっている。

 この情報というものは通常言語の形をとっているが、言語の意味が何であるかについては以下の三説がある。(1)観念説、(2)指示対象説、(3)行動説。(1)観念説は、言語の意味を、それを話す者や聞く者が内面に抱くアイディア・イメージだと考える。(2)指示対象説は、言語の意味を、それが指し示す外界の事物だと考える。(3)行動説は、言語の意味を、それが特定の文脈の中で聞き手の行動をどう導くかの問題だと考える。

 教唆や幇助による情報の提供を考えたとき、その情報の意味を観念や指示対象として考えるよりは、むしろ行動と考えた方が適切である。例えば、共犯が正犯に対して、「相手は老女だ」という情報を提供したとしよう。正犯が既に犯罪を決意しており、共犯がそれに対して単に知識を与えたに過ぎない場合、「相手は老女だ」という情報提供は行為性が弱く、幇助犯にしかならない。それに対して、「相手は老女だ」という情報の提供によって、正犯が「それならやってもいいか」と犯意を固めた場合、これは情報提供が正犯の行為を直接導くものであり、行為性が強く、教唆犯となる。

 情報の提供の行為性の強さによって、それが教唆であるか幇助であるかが分かれる。裁判官は、実務的に、具体的状況の下で、情報提供を単なる知識の提供というよりは行為としてとらえ、その行為がその文脈でどれだけ行為性が強いかによって教唆か幇助かを区別しているのであろう。