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裁判と真理

 裁判官は当事者の主張する事実が真実であると心証を形成したときに、その事実に基づいた法律効果の発生を容認する。だが、ここで言われている真実とはいったいなんであろうか。

 真理が何であるかについては以下の三説がある。(1)明証説、(2)対応説、(3)整合説。(1)明証説は、明らかに正しいことから明らかに正しい論理法則で導かれた事実を真理だとする。(2)対応説は、そこで言われていることが外界の事実と対応していればそれは真理だとする。(3)整合説は、そこで言われていることが他の言われていることどもと矛盾せず整合していることによりそれを真理だとする。

 裁判官は、これらの三説を特に区分することなく、混合したまま真理認定に使用していると思われる。だが、訴訟の種類によって、どの真理観に立つのが適当であるかをあらかじめ理論的に定立しておいたほうが、裁判官としても心証を形成しやすいのではないか。例えば、刑事裁判だったら、実体的真実の発見の要請が強いことから、検察官の公訴事実が現実の事実とちゃんと対応しているかどうか、という対応説的な傾向が強まる。一方で民事裁判だったら、実体的真実の発見の要請は弱く、むしろ当事者の主張することにどれだけ矛盾がないかという整合説的な傾向が強まるといえよう。