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社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

刑事責任の根拠

刑法学

 高山佳奈子は『故意と違法性の意識』において、刑事責任の根拠を実質的行為責任論に求めている。特別予防の必要性が責任を根拠付け限定するとする。犯罪者は犯罪行為を通じて自己を侵害的なものとして示した以上、その者を再社会化するために責任が生じ刑罰が課されるとする。そして、この場合の再社会化の必要性は、行為者の将来の危険性の科学的予測により判断されるのではなく、ただ現実化した事実のみによって判断されるとする。

 だが、行為者の主観に踏み込まずに特別予防・再社会化の目的は果たされるのだろうか。同じ現実的結果を引き起こしたとしても、行為者の主観によって、再社会化の必要性の程度は大きく異なるはずである。「同じ状況の下でも違法行為に出ない」程度に再社会化する必要があると高山は述べているが、その程度は同じ犯罪を犯した者同士でも大きく異なるはずである。再社会化の要請により責任の量を定めようとすると、その量は犯罪者の多様性から無規定にならざるを得ないように思われる。場合によっては法定刑の範囲から外れてしまうかもしれない。それを回避するために、高山は再社会化の必要性を現実化した事実のみによって判断しようとするのだろうが、そのことによっては犯罪者の特殊性を充分考慮できず、特別予防の目的を充分に果たせない。

 例えば、貧困で、こんな生活よりは刑務所暮らしのほうがましだと思って犯罪を犯す者がいたとしよう。実際、刑務所で暮らしてみたら、公園暮らしよりずっとましだったとする。そのような者を再社会化することなどそもそも不可能ではないか。特別予防の観点からは、そのような者には処罰は無効であり、責任を認めることができないことになってしまう。だがそれで妥当か。その者が人を刺していて被害者の復讐感情が強かったらどうするのか。その場合、特別予防とは別の応報の原理から刑事責任を基礎付けなければならないのではないだろうか。

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