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危険犯について

 危険犯を分類するに際して、「そこで問題となっている法益が特定か不特定か」、という基準を立てることができると思う。特定の法益の侵害の危険が問題となるのが、例えば遺棄罪である。遺棄された人間は特定されていて、その人の法益が危険にさらされているのである。不特定の法益の侵害の危険が問題となるのが、例えば放火罪である。現住建造物放火はそこに住んでいる特定人の法益も危険にさらされすが、それだけではなく、その周辺の不特定の財産や生命・身体を危険にさらす。

 特定法益の侵害に向けられた危険犯は、まさに対象が特定されているからこそ危険が高まり、可罰性が生じる。加害者の意図は、まさに遺棄された人間の生命・身体の侵害に向けられていて、それゆえに危険性が高い。逆に、不特定法益の侵害に向けられた危険犯に対しては、まさに対象が不特定であるからこそ早々と危険犯扱いして刑法が介入しなければならない。対象が不特定であるから、いつ何時法益侵害が生じるか分からないからだ。

 また、特定法益の侵害に向けられた危険犯は、その犯罪によってすでに特定客体の法益侵害を評価してしまっている。だから遺棄罪には結果的加重犯が定められ、傷害罪や殺人罪などの別罪を構成しないのだ。それに対して放火罪には結果的加重犯がない。放火罪は原則として傷害・殺人・損壊を評価していないから、傷害・殺人・損壊は別罪を構成しうると思われる。

 ちなみに、山口厚は未遂犯を具体的危険犯として構成する。未遂犯は、特定法益の侵害に向けられていることが多い(放火罪の場合は違うが)。そうだとすると、既遂犯は未遂犯の結果的加重犯みたいな位置づけになることになる。