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目的犯について

 目的的行為論、つまり、構成要件的結果発生という目的を志向して因果経過を支配するのが刑法の「行為」だとする立場からは、あらゆる故意犯は目的犯と同質である。つまり、例えば故意殺人罪は殺人の目的を有する者を処罰する犯罪であり、主観的構成要件要素として目的が含まれているため、目的犯と同質なのである。

 故意犯と目的犯の違いは、故意犯が、目的とする法益侵害を惹起した時に既遂とされるのに対し、目的犯は、目的とする結果を惹起する前に構成要件該当行為をすれば既遂とされてしまうところである。例えば通貨偽造罪(148)は、行使の目的が必要とされるが、実際に行使しなくても、その手前の偽造変造という構成要件該当行為だけで処罰されるのである。目的犯の目的は法益侵害あるいはその危険であるが、その目的の成就の前に、目的を持っているという主観的な危険性を根拠に、早々と処罰されるのである。

 とすると、未遂犯は目的犯と実質的に同じなのではないかというアイディアがわいてくる。殺人未遂罪は、殺人を目的とするが、目的を成就する前に、着手という構成要件該当行為を行っただけで、目的を持っているという主観的危険性を根拠に成立する。これはまさに、「殺人の目的で、殺人行為に着手した者は、Xに処する」という目的犯と同じ構造をもった条文で規律されうるのではないだろうか。