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賄賂の罪と契約

 公序良俗違反の契約は無効であるが、そのような契約のうち、公務員の職務の公正とそれに対する信頼を害するような契約を処罰するのが賄賂の罪である。この契約は、公務員が賄賂と引き換えに不正な職務を行うという請負契約のようなものであろう。賄賂の罪で処罰されている行為が、契約の締結・履行のどの段階に対応するかを考えると、賄賂の罪は理解しやすい。

 契約は、申し込みと承諾によって成立する。成立した契約をもとに債権者が債務者に請求をすることもある。そして、契約をもとに債務者は契約の履行をする。

 197条1項(単純収賄罪)における「要求」とは、公務員の側からの契約の申し込み、あるいは、契約に基づく贈賄の履行の請求であろう。「約束」とは契約の承諾、あるいは契約の申し込みが功を奏して契約が成立した場合のことであろう。「収受」とは、相手方の契約の履行を受領することであろう。

 197条の3第1項(加重収賄罪)における「不正な行為をし、又は相当な行為をしなかった」とは、公務員の側の契約の履行のことであろう。

 198条(贈賄罪)は、相手方の申込、契約、契約の履行を処罰している。

 つまり、賄賂の罪は、賄賂契約について、その申し込み・承諾から履行に至るまですべての段階を処罰しているのである。そして、それらのどの段階を誰がやっているか、契約の内容は明確か(受託収賄)、によって、法益侵害の程度を考慮し、刑の重さを決めている。