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社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

存在の追認

法哲学

 民法113条1項は、無権代理人の法律行為を原則無効とし、本人の追認があった場合には効力を発生させる。法律行為はそれだけで無条件に法律効果を発生させるわけでなく、無効事由がある場合には、利害関係人はその効果の発生を阻止できる。

 だが事実行為はどうだろうか。請負人がたとえば料理を作った場合、その料理が依頼の趣旨に反する場合、依頼人はその料理を作った事実の効力を否定できるだろうか。確かに、債務の履行による法律効果の発生は否定できるかもしれないが、出来上がった料理の存在という事実は否定できない。効果を否定することはできても事実は否定できない。だから、効果については追認するかどうかという問題が生じるが、事実については追認せざるを得ない。いくら料理を捨てさせて新しく作り直させても、最初の料理が存在した事実はもはや否定できないのだ。これは効力が観念的なものにすぎないのに対して、事実は物理的なものだからだ。

 ところで、自分が自分として生まれてきた事実について、誰も事前の同意をしていない。なぜなら、生まれる前にはその人は存在していないからそもそも同意ができないからだ。自分が存在していること、自分がこのような家庭に生まれこのような環境で育ったこと、それについて、誰も同意していない。では同意していないならそれらの事実は無効かというと、それらの事実は事実である故にその存在を否定することはできないのである。法律効果については有効無効が問題となるが、事実についてはそれらが問題とならない。事実である故に、追認するかしないかという選択肢もない。追認するしかないのである。

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