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保管

 保管って何だろう。所有権の内容は使用・収益・処分だから、保管は所有権の内容ではない。「保管権」というのが特にあるわけでもなく、「俺の保管を邪魔するな」という妨害排除請求はとても奇妙だ。だからといって、「保管義務」という自己に対する義務があるわけでもない。なぜなら所有者には処分権があるから、物を保管しないで荒廃させてもかまわないからだ。

 結局、保管というものは、所有権という権利を行使するための前提となる事実行為なのだと思う。保管をしていなければ使用・収益・処分ができない。権利性も義務性もないただの事実行為。ただし、他人の物を保管する場合は寄託契約などとなり保管義務が生じる。

 権利行使の前提となる事実行為としては、ほかに政治的演説をするための原稿を書く行為などが考えられる。表現の自由を行使するための前提行為である。これは権利でも義務でもない。それに対して、義務履行の前提となる事実行為は義務性を帯びる。売買契約の引き渡し義務の履行の前提として調達行為があるが、これは調達義務となり義務性を帯びる。