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解釈の違憲

 法令の合憲限定解釈が、刑罰法規の明確性の原則(31条)に反して違憲になることはないだろうか。

 例えば、最大判昭60・10・23は、「淫行」という語の意味を、青少年の未成熟に乗じた性的行為、自己の欲望を満足させるだけの性的行為、に限定している。だが、徳島市公安条例事件判決は、刑罰法規の明確さは、一般人が具体的場面でそれが適用されるかどうか判断できるか、によって判断するとしている。「淫行」という語を目にしたとき、一般人はそこまで限定された意味で解釈せず、単なる性交またはそれに類する行為と解釈するのではないだろうか。

 つまり、刑罰法規が不明確で、それを合憲限定解釈するために明確化したとき、その明確化され限定された内容は一般人が普通には思いつかないような内容でありうる。そのとき、本当は刑罰法規を明確化したつもりが、その明確化された内容が一般人には予想もつかず、逆に一般人の行動を不当に規律することになってしまいかねないのだ。

 刑罰法規の明確性の原則は、一般人に予測可能性を与えるためのものだ。予測可能性を与えるために刑罰法規を限定解釈することが、逆に予測可能性を害することがありうる。このように、裁判所による法令の解釈が違憲であるとき、その違憲性は裁判所自身が判例変更することでしか修復することはできない。行政庁だけでなく、裁判所も、違憲な法令解釈をおこなう可能性がある。