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more efficient alternative

 法と道徳を区別するのは、一つには、法システムと道徳システムがどこまで効率性が要求されているかである。法システムは限られた予算の中で限られた人材や資源を用いて運営される。しかもこの予算は主権者から徴収するものであり、主権者の不利益の上に成り立っているものであるから、最小限のコストで最大限の効果を上げなければならない。法システムは効率的でなければならない。法システムの背後にはいつも功利主義がある。最大多数の最大幸福を規則的に実現すること。

 それに対して道徳システムは多少の非効率性を許す。妻の死をみとるために大事な取引をだめにしてしまっても、道徳システムからは許容されるのだ。ヤクザがひどい侮辱をされたから相手を殺す、これもヤクザの道徳システムからは許容されるのだ。道徳システムの担い手は国家ではなく個人であるから、個人の自由によって非効率的な行為が許されるのだ。

 法システムの効率性は、複数の選択肢の中から、より低コストでより効果のあるものを選択することで実現される。政府は常にmore efficient alternativeを選択し、そのことにより最大多数の最大幸福を実現する。例えば、食品衛生法違反をしている飲食店があったとしても、指導で是正できる程度であれば、行政庁はまず行政指導をする。営業停止処分をすると、営業者の営業の利益がはなはだしく害されるし、行政手続法上弁明の機会の付与をしなければいけなく、行政側の負担も大きい。その点、行政指導をしただけで不正が是正されるならば、営業者の営業の利益も害されず、行政庁も不要な手続きをしなくて済む。

 法の一般原則と呼ばれるもののうち、more efficient alternativeの原則をもっとも体現しているのは、比例原則だろう。何らかの必要性から法益主体の利益を侵害する場合、その侵害の程度は、その規制の目的を達成するための最小限でなければならない。政府が数ある選択肢のうち、more efficient alternative、つまり最低のコストで最大の効果があげられる選択肢を選ぶことが、最大多数の最大幸福を生み、功利主義の理想に合致するのである。