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ジレンマ

 そう言えば、私はずっと、ローと研究との間のジレンマで苦しめられていた。私は学問として法律学を思考したいと思っていたが、ローのスケジュールはあっという間に過ぎていき、私は十分学習内容を咀嚼する暇もないまま、試験に追われた。私のような仮面既修の人間にとってローの二年間は負担が大きすぎ、その割には短すぎた。私は受験勉強も学問も中途半端で、辛うじて単位だけはとり、修了してしまった。そしてその後すぐに試験を受けろという。私には無理な話だった。まず、学問として十分思考し咀嚼して法律学全体を体系的に理解したかった。しかも試験や点数で自分の能力がはかられることに対するぬぐいがたい違和感があった。覚えたことを吐き出すことでではなく、どれだけ体系的で稠密な思考をしたか、つまりどれだけ良い研究論文を書いたかで評価してもらいたいという欲求が常にあった。制度と私の資質は完全に食い違っていた。

 だが、研究大学院に行くための条件として試験合格が提示されたことにより、私は試験というものを研究の一部に組み込むことができるようになった。試験に受かるための勉強と言っても、学問を排除するものではない。たくいつだって、理論的に考えることは十分可能だし、この1カ月はそれを実践してきたではないか。理論では説明できない暗記すべき個所にしても、そういうものの存在自体が研究のテーマになりうる。法定立・法解釈の偶然性や、恣意性、その例証とみなすことも可能だ。私は最近になってようやく、自分のアイデンティティの中に「受験生」というものを組み込むことができるようになった。これまで、「受験生」は私の同一性を構成していなかったのだ。だからといって受験生を馬鹿にしていたのではない。何か自分とは違う人種だと思っていた。だが、私は試験合格を喫緊の目標とすることにより、受験生としての同一性を獲得した。これからは、理論的な思考と同時に、いかに点を稼ぐかという思考も私は行っていくだろう。そこで得られるものが何らかの形で研究にフィードバックされることを期待しながら。私のジレンマはやっと解消された。