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可能性と危険性

 行為者が犯罪の計画を立て、予備をし、実行に着手し、既遂に達する。この過程は、通常は結果発生の危険性の増大の過程としてとらえられている。だが、逆に見れば、それは、結果発生以外の出来事が起こる可能性が縮減していく過程と見ることもできる。計画を立てた段階では、行為者は翻意が容易であり、結果が発生しない可能性は大きい。それに対して、実行の着手まで行ってしまうと、結果が発生しない可能性は小さい。危険性の増大、つまり結果発生の可能性の増大とは、逆から見れば、結果が発生しない可能性の減少なのである。

 判例によると、放火の目的で他人の住居に侵入しても放火罪の実行の着手はないとされている。これはなぜかというと、住居に侵入しただけでは、まだ放火以外の行為をする可能性が十分大きいからだ。一方、拘禁場の損壊を開始しただけで加重逃走罪の実行の着手は認められている。これは、拘禁場の損壊をすること自体、その目的は逃走以外に考えにくく、逃走以外の行為をする可能性が小さいからだ。