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法的実践的推論

 事実から規範を導くために、欲求と状態という事実から、その状態でそのような欲求を実現するためにはこのような手段が適切である、だからこのような手段をとるべきである、そういう推論方式がとられることがある。例えば、ある人が免許を取りたい。近くに教習所がある。ここ数日間休みが取れる。それらの事実から、近くの教習所でその休みで免許を取るべき、という規範が導かれる。

 ところが、欲求や目的を達成するために複数の手段があることがある。学校が体育の教育を行いたいとき、その目的を達成するためには、剣道を履修させるとか、テニスを履修させるとか、複数の手段がある。法的な機関が手段を選択するとき、それは効率性の観点からなされる。つまり、目的を達成するために最もコストの少ない手段を選ぶべきなのである。これは、手段というものが往々にして人権侵害や公益侵害を伴うものだから、なるべくそれらの法益侵害が少ない手段をとるのが社会全体の利益になるからである。剣道を履修させることが特定の生徒の著しい不利益になる場合、学校は代替手段を講じなければならない。

 つまり、欲求と状態から手段を導くとき、通常の実践的推論なら手段を問うことはそこまで要求されていないが、法的実践的推論においては、最も効率的な手段をとることが要求されるのである。これがLRA基準などの根本にある思想であろう。