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他律決定

 会社法の基本にあるのは、企業維持の理念、企業活動円滑の理念である。つまり、会社という法人の利益を第一に考え、それを構成したりそれの機関だったりする個人の利益は劣後させるのである。そのことによって、結局は会社をめぐる利害関係人の総体としての利益が最大化されるのだ。ここにある発想は、個人の利益の最大化という民法の発想ではなく、集団の利益の最大化という会社法の発想である。

 集団の利益を最大化するためには、一人だけが得をしてその他大勢が損をするという事態は避けなければならない。それゆえ、取締役は株主からも監査役からも他の取締役からも監視され、またその選任は株主が行うのである。このように、集団の総体としての利益を図ろうとするとき、個人の自律的決定というものは劣後していかなければならない。それよりも、集団を構成する個人を他の個人や集団が監視し決定する、そういう他律的決定が必要になってくる。

 会社法が、役員の選任や監視、責任追求など、他律的決定の規定を多く含むのは、集団の利益の最大化を目指すためには個人の自律的決定では限界があるため、他律的決定が必要不可欠だからだ。