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無効・取消・不存在

 行政行為であれ会社の行為であれ法律行為であれ、それが無効であるか取り消しうるか不存在であるかは、その行為の性質によって決まると思われがちである。行為が無効としての性質、取り消し得るという性質、不存在という性質を備えている。一見これは正しいかのように思える。

 だが、最判昭48・4・26を見てみよう。「徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分により不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には、前記の過誤による瑕疵は、当該処分を当然無効ならしめるものと解するのが相当である」。つまり、ある行政行為の効果を発生させることによりその行為の相手方の不利益が著しいときは、その行為は無効とし、逆にある行政行為の効果を発生させることにより行政側の利益が大きいときは、それをとりあえずは有効として取り消し得るにとどめるのである。

 要するに、無効・取り消しうる・不存在という評価は、行為そのものの属性ではなく、その行為を有効にしたときに生じる関係者の利益、無効にしたときの関係者の利益、その利益を調整することにより、もっとも公正に保護されるべき利益が保護されるように決定されるのである。

 新株発行の無効事由・取消事由について目を移そう。取引の安全が重視されるときは、新株発行は取り消し得るにすぎない。だが、新株発行により既存株主に著しい不利益が生じる場合、それは無効とされるのである。無効・取り消しうる・不存在という評価は、行為の効果を発生させるべきかどうかを関係当事者の利害状況を調整することによって決定されるのであって、行為そのものの属性ではないのである。