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行政行為と科刑

 行政行為とは、国民の権利義務・法律関係を直接権力的に具体的に確定する行為のことであるが、刑罰を科する行為もまた、この行政行為の要件に該当しないだろうか。科刑もまた、国民の義務を直接具体的・権力的に形成するものだからだ。

 さて、行政行為が違法である場合、それに対して取消訴訟を提起できるが、そのとき、当該行政行為の違法性を判断するために、当該行政行為の根拠規範、そしてその根拠規範の含まれる法律の、趣旨目的が考慮される。最大判昭48・4・25を見てみよう。鉄道営業法42条1項が、鉄道公安職員に不法行為者を退去させることを認めていることについて、その趣旨を、「鉄道事業の公共性にかんがみ、事業の安全かつ確実な運営を可能ならしめるため」ととらえている。その趣旨からすれば、「自発的な退去に応じない場合、または危険が切迫する等やむをえない事情がある場合には、警察官の出動を要請するまでもなく、鉄道係員において当該具体的事情に応じて必要最小限度の強制力を用い得る」。

 ところで、この発想、つまり、行政行為が有効であるかについて、その行政行為の趣旨に立ち返り、その趣旨に照らして考えるという発想は、刑法においても同じである。犯罪が成立するかについて、その犯罪規定の趣旨、つまり保護法益に立ち返り、保護法益の観点から犯罪が成立するかどうかを考えるのである。

 行政法で言われる根拠法の趣旨目的とは、刑法の保護法益に対応し、結局、権力の行使を正当化するために、その権力行使の目的の正当性を根拠にするという構造を共有している。