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復讐

 私が法律を生業とするのは、法律を用いて、過去に私に対して向けられた不正・不法に対して復讐するためだけなのではないだろうか。私は迫害体験があり、それで一度精神を患っている。つまり、傷害罪の被害者なのだ。結局、法を自らの武器にすることで、自らに向けられた暴力に復讐するのが、私が法律を学ぶ意義なのだろうか。そのような、極私的な、個人的な復讐感情で、法という巨大な道具を扱っていいのだろうか。

 私が法に惹かれるのは、そんな個人的なルサンチマンの解消のための道具としてだけではない。自らに向けられた暴力でなくとも、他人に向けられた暴力にでも、私は義憤を感じる。法とはこの普遍的な義憤ではないのだろうか。社会の不正・個人の不正に対して憤る、そういう普遍的な倫理感情が法の力になっているのではないだろうか。

 法の背後に感情があることは否定できない。イェーリングはまさにそれを正面から取り扱った。だがその感情は、ごく個人的な復讐感情みたいな卑小なものではない、いやそうであってはならない。むしろ、人間ならだれでも憤るようなそういう不正を矯正するための共同主観的な力、それが法ではないのだろうか。