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高島善哉『社会科学入門』(岩波新書)

社会科学入門――新しい国民の見方考え方 (岩波新書)

社会科学入門――新しい国民の見方考え方 (岩波新書)

 社会科学は社会を対象とする経験科学であるが、その対象である法や経済・政治などは相互に密接にかかわっており、また社会自身が歴史的に絶えず変遷を繰り返していることから、自然科学のような専門性や安定性を得ることができない。また、社会科学は実験室の中で実験することもできず、社会の中に出かけて行かないと実践することができない。さらに、社会科学においては常識と科学の区別があいまいで、かつ用語法も自然科学のような特殊な用語ではなく日常用語がつかわれるので、自然科学ほど厳密な議論ができず絶えず立場同士の争いがついて回る。これが社会科学と自然科学の違いである。

 だが、人間が社会で生きている以上、人間が直面する問題も社会的なものが多数あり、それらについてどのように対処していくかについては、社会科学の知見を待たねばならない。だから、社会に対する関心を持つことが、社会科学へ入門する第一歩となる。

 現代社会を分析するにあたって、主要な問題圏は、体制・階級・民族に大きく分けられる。そして、体制・階級・民族の、歴史・理論・政策を探っていくのが社会科学の課題である。

 ところで、社会科学が成立するためには、政治を宗教や道徳から切り離し、それを独自に歴史的実証的に考察する必要があった。それをなしたのがマキャベリである。そして、政治的なものの見方に経済的な観点を導入したのがロックであり、法において歴史的社会的研究をなしたのがモンテスキューである。このように、社会科学は、まず市民社会を作り上げる政治学として成立し、次に市民社会の解剖学である経済学として成立し、さらに市民社会の秩序を維持する法学として成立した。

 だが、市民社会にも限界があり、それは、自由と平等が実質的には成り立たないこと、階級の対立を生み出してしまうことである。アダム・スミスは市民社会の成立に寄与し、マルクスは市民社会を批判した。

 ところで、社会科学にも法則があり、それは個人の把握を超えるものである。社会には自然と違って人々の意志の働きがあり、それが、自然科学とは違った社会科学の法則を生み出している。

 現代は、体制間・階級間・民族間の争いがある危機の時代である。そのような危機の時代に処方箋を書くのは社会科学の役割である。社会科学は社会の法則を導くことで、危機への対処法も見出すだろう。現代の危機に対処すべく、一人一人が社会科学に目を開かねばならない。