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梅田望夫『ウェブ進化論』(ちくま新書)

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

 本書は、ウェブ社会が到来したことによって、テクノロジーの進歩や個人の学習・表現・仕事がいかに容易になっていったかについてわかりやすく説明している。

 まず、「チープ革命」。これは、あらゆるIT関連製品のコストはどんどん下落していくという法則である。これは、ある製品があると、顧客がより良いものを求めようとするから、同じ価格の製品の機能・性能・使いやすさが向上し、既存のものは一気に価格が低下していくという法則である。これによって、高機能なものが低コストで一気に普及していく。

 次に「オープン・ソース」。これは、従来企業などが内部だけで保持していたプログラムや営業のノウハウ、そういうものを無償で公開することで、それを利用した不特定多数の人間による、もとのソースの発展を招来している。

 そしてグーグルという企業の存在。ウェブの「あちら側」に検索システムや情報提供システムを、「ウェブ上の民主主義」という理念で整備することによって、玉石混交のウェブでの情報を整理してくれる。

 さらに「Web2.0」。ネット上の不特定多数の人を、受動的なサービス享受者ではなく能動的な表現者として巻き込んでいく技術・サービスの開発である。

 これらを組み合わせると、まず、これまで容易にアクセスできなかった情報に容易にアクセスできるようになる。マイナーな情報へのリンクが活発になり、マイナーな商品へのアクセスが容易になり、新たな市場を生み出す。と同時に、これまでマイナーであった人々が一様に表現者になることが可能であり、また広告収入を得ることも可能になり、さらにはウィキペディアの編集など、マイナーな個人の集結で大きな事業を成し遂げることもできる。

 これまで、技術や情報や表現は、大企業や権威の側に集中していたが、ウェブ社会の到来とともに、技術や情報はオープンになり、表現は誰でも可能になり、そこで、いままで権威の側にいなかった人たちのマイナーな参与によって、知の空間や技術の空間が活性化されていく。

 私が本書を読んで一番強く感じたのは、ウェブ社会の到来によって、民主主義が真の意味で実現化してきているということだった。これまで、民主主義とは名ばかりで、実際に民意の形成などは難しく、せいぜい選挙で候補者を選ぶくらいの意味しかなかった。ところが、ウェブ社会の到来で、一人一人が声を上げることが可能で、また、権威に頼ることなく、一人一人が良いと思ったものを選択していくことができる。その総体としての民意が、例えばブックマーク数であったり、リツイート数であったりするのだが、これまでになかった、市井の人々の意見をダイレクトに反映する民主主義が成立してきていると感じる。