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広河隆一『福島 原発と人びと』(岩波新書)

福島 原発と人びと (岩波新書)

福島 原発と人びと (岩波新書)

 本書は今回の原発事故のルポルタージュである。今となっては日本全国の人々が知っていることばかりだが、それを改めて一冊の本で読んでみると、この事故が紛れもなくひとつの「歴史的事件」だったことを実感する。そして、今回の事故が決して福島に限定された問題ではなく、今回の事故が顕在化させた問題は、日本全体、さらには世界全体へと射程を広げていることが分かる。

 本書は事故がもたらした多様な問題を簡潔に綴っており、それらを深く掘り下げることはしない。それよりも、一つの事故がこれだけ多くの問題の坩堝になっているというその事実を示そうとしているように思われる。それは、権力というものがえてして情報を操作するものであるという問題や、報道機関の取材の限界の問題、災害時における医療の問題や、社会的差別の問題、農業の本質がどこにあるか、などなど多様な問題系である。このように多様な問題系の坩堝となり、掘り下げていく気になればいろんな角度からどこまでも深く掘り下げることができる事件、それこそがまさに「歴史的事件」の名に値する。