- 作者: 久野収,鶴見俊輔
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1956/11/17
- メディア: 新書
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本書は、20世紀初頭から戦後までに、日本社会に大きな影響を与えた、基本的に日本から内発した思想を五つ紹介している。
日本の観念論としての白樺派は、精神的なものを重大と考え、宇宙の意志と自分の意志との調和、自我実現を目指した。彼らは自分たちのグループを作り、「新しき村」という理想社会を実際に作った。
日本の唯物論としての日本共産党の思想は、弁証法的唯物論であり、世界の物質的構造の分析からより良い未来のコースを見つけその実現に努力するものである。昭和時代の日本共産党は福本イズムにはじまり、積極的に党・組織を作ることに精力を注いだ。
日本のプラグマティズムとしての生活綴り方運動は、子供たちに実際に作文を書かせることによって、子供たちの自発性や意識の涵養に努めた。生活綴り方運動は、地元の教師などのリーダーによって、その小社会に根付いて全国的に広まった。
日本の超国家主義としての昭和維新の思想は、既存の国家機構や伝統的制度に対して、その代表的人物を殺害するなどする過激なものだった。代表的人物としての北一輝は、国体論(天皇主権・万世一系・君臣一家・忠孝一致)を批判した。北の思想はのちの日本国憲法を先取りするものだった。
日本の実存主義は、敗戦後の価値転倒の中で、どこにも確固たる根拠を持てなくなった戦争経験者を襲った。戦後派の人たちは、歴史と個人を切り離し、自由と責任を共に 担った。犯罪も多発した。
「思想」というと、輸入物ばかりが紹介されるのが常であり、さらには哲学ばかりが紹介されるのが常であるので、このように、アカデミズムの中に閉じこもっていたのではなく、実際に社会に影響を与え、かつ日本で独自に展開していった思想を追う書物は貴重である。この本から見えてくる現代の日本というものもあるだろう。現代の日本ははたして観念論的であるか、実践論的であるか、唯物論的であるか、超国家主義的であるか、実存主義的であるか。