- 作者: 川島武宜
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1967/05/20
- メディア: 新書
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日本は西欧にならって法典を編纂したのだが、その法典の内容と日本人の法意識の間にはずれがあった。
まず、日本人には「権利」の観念が欠け、「権力」すなわち家父長的温情関係が根強く残っている。権利の主張は自己中心的・平和を乱す・不当に政治権力に訴えるとして非難され、対等な個人間の要請応答という関係が成立しなかった。
そして、法律の内容もまた不確定的で、慣習や条理に任せるところが大きく、さらには法律の規範性自体も不明確であり、法律は飾り物としての最終手段であり、融通を利かせたり丸く治めたりすることが求められた。
また、国民の人権は十分に保障されていず、政府の権力によってないがしろにされていた。国家賠償や刑事補償は定められておらず、国家無答責の原則が貫かれていた。
さらには、所有権というものもあいまいであり所有と占有が区別されなかったりしたし、契約もその内容は不確定で拘束力も弱かった。
最後に、民事訴訟についても、そもそも訴訟を忌避する風土があり、なるべく仲裁的調停によって、法律によらず丸く治めることが求められた。
本書は1967年に刊行されたものであり、現代の日本人の法意識とはまた違うとは思うが、私としては、西欧的な法体系のみが唯一の法体系ではないことを示す面白い本だった。法体系というより、「法システム」の方が適切かもしれないが。確かに、政府や強者が国民や弱者の権利を踏みにじることが好ましいことだとは思わないが、契約や調停において、「和」を尊び丸く治めることは、むしろ好ましいことだと思う。昔の日本の法システムから、現代の我々は、その柔軟性を学ぶことができる。