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清水幾太郎『オーギュスト・コント』(岩波新書)

 

オーギュスト・コント―社会学とは何か (1978年) (岩波新書)

オーギュスト・コント―社会学とは何か (1978年) (岩波新書)

 

  コントの生涯と思想をコンパクトにまとめた入門書。コントの中心的な思想は「三段階の法則」にあった。人間の精神が、神学的段階・形而上学的段階・実証的段階と進化していくというのがその内容である。神学的段階では観察が余りなされず超自然的観念ばかりが用いられる。形而上学的段階では観察と超自然性が中途半端である。実証的段階に至ってようやく観察された事実が著しく増し、それらを結合する観念も十分事実に基づくに至る。

 科学は、数学・天文学・物理学・化学・生物学・社会物理学に分かれ、その順に観察の難易度は増していくが、コントの時代になってやっと社会物理学が実証的段階に達した、とコントは主張する。科学はこのように階層化され、それを総合するものとして実証哲学が存在する。

 コントは経済学を独立した科学とは認めず、他の社会現象との分かちがたい結合を強調する。社会学の方法としては歴史的方法を認め、過去と未来とを結ぶ現在という視点から観察していく。また、彼は内観を方法とする心理学も認めていない。だが、心理を生む機関である脳髄と心理の結果である科学の研究は認める。

 また、コントは『実証政治学体系』という、愛する女性に捧げられた極めて主観的で宗教的な書物を書いていたりもする。それは結局、かれが実証哲学によって人間を観察するにあたって観察の限界を知り、それを超えるためのものであった。

 社会学の祖と言われるコントについての書物であるが、彼の社会学は独立したディシプリンというよりは「総合社会学」であり「実証哲学」であり、その理念は単に社会の観察にだけとどまるものではなかった。だが、観察の方法による人間の活動の科学的研究の端緒を体系的に開いたという意味で、コントの存在は大きいし、細分化していった諸社会科学を改めて総合的に見直す際に、彼の視座は却って有効であろう。