トラウマとは忘れようとしても忘れられない外傷的記憶のことである。トラウマがどのようにして表象され、トラウマを抱いている主体がどのような構造を持っているかについての論文集である。
トラウマは幼児型記憶であり、文脈に組み込まれず感覚的で断片的である。そして、トラウマの表象は常にトラウマの回避(解離)と共にあり、苦痛で避けたい記憶であると同時に反復される記憶でもある。また幼児期に受けたトラウマは主に行為として記憶され、物語に回収されない。
トラウマというものは外部的ショックの内部への予期せぬ侵入であり、トラウマの場のようなものを形成する。そして、トラウマはその断片的・非言語的な在り方が物語化されていくことにより解消されていくものである。
トラウマについての重要な論点は主に以上であるが、その他にも専門的な短い論文がいくつか寄せられている。論文集という形で、体系的なまとまりがあるわけでもないし、論文の質もまちまちであるが、トラウマの基本的な在り方について掘り下げた議論を読むことができるのでなかなか面白かった。フロイトはもちろん、ラカンやユング・ジジェクについての言及もあり、心理学についてもっと読んでいきたいと思った。