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社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

佐々木毅『近代政治思想の誕生』(岩波新書)

政治学

 

  ルネサンス宗教改革によってものの見方が変わっていった16世紀ヨーロッパ、どのような政治思想が誕生したかを個別の思想家の思想をもとに概説している本。

 クロード・ド・セセルは、古典古代の文化を重視する人文主義的傾向を持ちながら、実践を重視し、歴史を素材にものを考えた。彼は社会の統一の観点から王政を擁護しながら、宗教・正義・伝統的秩序による王権の拘束も主張する。つまり、「貴族政によって制約された王政」である。

 マキアヴェッリにおいて人間の特質は野心と貪欲である。だから、人間は放っておくと野蛮状態に陥る。それを防ぐために支配者は力を備え、民衆は恐怖を抱かなければならない。彼は軍事外交を重んじ、支配者は国を維持し拡大することが一番肝要だと主張する。彼は平和と安全を追求するためにそのような主張をしたのである。

 トマス・モアにおいてはキリスト教人文主義が結合しており、聖書を一つの古典として研究し、そこからキリスト者の生活を純化する思潮が基底にあった。彼の『ユートピア』は愉快でもあるが、一方で痛烈な批判が込められている。支配者が権力・富を掌握し、民衆が悲惨・貧困に陥れられている現実が、キリストの教えと乖離していることを彼は痛烈に批判する。『ユートピア』では、私有財産の否定、人間愛に基づく他者への奉仕、全ての人間の労働と労働時間の短縮、学問研究の振興、宗教に対する寛容性、戦争放棄、などのラディカルな主張がなされている。

 カルヴァンは新しい信仰を可視的教会へ組織化し、世俗権力に臣民は服従すべきとした。悪しき支配者にも服従すべきであり、例外的に神に反することを命ずる支配者には、祈ったり耐えたり逃れたりという消極的な抵抗のみ許された。だが彼の弟子たちは抵抗権を認める方向に向かって行く。

 モンテーニュ宗教戦争を目の当たりにして、そこでは人間の悪しき欲望が宗教を口実にして互いに醜く争っているだけだという現実を抉り出す。人間は栄誉や名声を求めるのではなく、健康・生命・平安を求めるべきで、そうすれば無用な争いを避けることができる。彼は社会の混乱を嫌っていたので、革命よりも伝統を重んじることを望んだ。

 ジャン・ボダンは、国家とは家族・主権・正しい統治によって成立するとする。彼もまたアナーキーの克服に重きを置いていて、主権による絶対的統一を重視したのである。正しい統治のためには契約の遵守・自然的正義・臣民の財産の尊重が必要である。

 さて、ここに挙げられた思想家たちは、とにかくアナーキーを嫌い平和を樹立したがっていたことがよく分かる。当時は政治と宗教が絡まり合い、宗教の名を借りた政治的な醜い争いが横行していた。そのような混乱をいかに収拾するかについて彼らは考えたのである。基本的に王政が好ましいとされているが、王政にも種々の制約が課されていることを見逃してはならない。平和的統一と民衆の幸福、この二つの理念を達成するためには、強力な君主とそれを規制する法の両方が必要だった。ここに挙げられた思想家が、みんながみんな実際的な政治的関心を抱き、実際的な提言をしていることが興味深い。それほど混乱した時勢だったのだろう。