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W.O.レスター・スミス『教育入門』(岩波新書)

 

教育入門 (1958年) (岩波新書)

教育入門 (1958年) (岩波新書)

 

  教育についての基本的な問題を網羅した基本書。教育に関する思想はここから始まると言っていい。

 教育がどういうものであるかについては諸説ある。徳の涵養を目指すものから職業訓練まで、教育には様々なものがありうるし、教育の主体もなにも教師だけではなく自然の事象も含めて人生経験全体とも考え得る。そして教育は連続していくもので、生涯ものである。また、教育は単なる詰め込みではなく、受ける側の主体性を重視しなければならない。

 ルソーは『エミール』において、儀式や因習・束縛を嫌い、子供が自然と接することを重視し、また発達の段階に自然に沿った教育をすることを主張した。また、教育心理学も発達し、特に精神分析はもてはやされた。デューイは教育を成長だとみなし、教育の目的は精神的・道徳的・身体的成長を励ますことだとした。

 教育について考えるにあたって、家庭の問題を度外視することはできない。いかに優れた教育を施したところで劣悪な家庭環境に戻っていくのでは教育が無駄になる。教育者としての父母の役割が強調されている。また教育には行政も重要な役割を果たす。

 結局、教育とは「人生への準備」として捉えられるべきであり、高度に産業化された社会に適応できる社会性や技術的能力の教育は大事である。

 本書を読んでわかるのは、教育というものが本当に幅広い領域を巻き込んだ複雑な営みであるということである。人間は自ら自らを教育するだけでなく、あらゆる人生体験から様々なことを学んでいく。その導き役となる教育は、人間の自然な発達を妨げることなく、それを補助し、現代の社会へとうまく接続させていかなければならない。そこでアクターとなるのは教育者だけでなく地域の住民や両親などであり、それぞれの役割も異なってくる。教育は時代を反映する。時代が要求する人材を育成するのが教育だが、時代を超えた普遍性が教育の問題には残り続けるものだと信じている。だから、時代に即応する人材を作り出すことだけが教育ではなく、基礎的な学問を受け継がせていくこともまた教育であり、それが社会への批判能力のある知識人を生み出すことにもなる。