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作田啓一『個人主義の運命』(岩波新書)

 

個人主義の運命―近代小説と社会学 (岩波新書 黄版 171)

個人主義の運命―近代小説と社会学 (岩波新書 黄版 171)

 

  社会学の基礎は二者関係ではなく三者関係としてとらえられるべきである。S(主体)、O(客体)、M(媒介作用、媒介者)を用いて、S-M-Oと表現されるこの図式は、他者を媒介とする動機づけのパタンの学習のことである。人間が何か対象を欲求する場合、そのパタンは媒介者から学習されるのである。

 中世において個人主義は充分育たなかった。人々は中間共同体のなかで共同生活をしていて、個人主義も国家の概念も育たなかったのである。

 だが、宗教の面ではプロテスタンティズムの台頭により、個人の信仰に宗教の本質が置かれ、中間共同体はすたれていく。また、経済の面では、資本主義の発達により自由市場で合理的にふるまう経済人の概念が発達し、中間共同体はすたれていく。そして政治の面では、専制君主制国家による中央集権により、都市や僧院などの中間勢力が駆逐されていった。このようにして近世になって個人主義は芽生えていく。

 ところが20世紀になって、理性は大衆社会の出現によりその力を発揮しづらくなり、感情に訴えるものが大衆を動かすようになった。また、個性を発達させるにも、私的生活と公的生活のどちらで発達させるかで個人内で分裂が生じた。また、消費者の出現により、人間は経済システムの中でマスコミなどに影響され自立を維持しがたくなった。個人主義は今や危機に瀕していて、これらに代わる「欲望の個人主義」が台頭している。

 本書は、社会学における個人のとらえ方に対する批判的検討であり、それは社会関係のとらえ方を三者関係にすべきとか、現代の個人主義は欲望が主体になっているとか、そのように要約されるが、私にとってこういった見解は新しかった。割と二者関係で社会関係をとらえていたり、近代的な個人主義をいまだに持っていたりしたので、作田の先見の明には勉強させられるばかりである。なお、小説を題材にとって具体的・説得的に論じられているので、その点も優れている。読んで新たな発見が得られると思う。